
沼尻 務さん(沼尻ファーム)
つくば市の沼尻ファームは、市内に複数の畑を所有する農家さんです。土壌消毒をしない畑で化学合成農薬をできるだけ使わず通年常時10~15品の野菜を栽培しており、新しい品種の野菜づくりにも積極的に挑戦しています。収穫した野菜は、主にJAやパルシステムに出荷しているそうです。
当法人との付き合いは10年ほど前からで、ごきげんファーム大角豆事業所のファームスタッフは、沼尻ファームの畑で野菜の種まきから苗の定植、除草、収穫、片付けまで、四季折々の景色の中でさまざまな作業のお手伝いをさせてもらっています。いつもファームスタッフを温かく見守り、作業の手ほどきをしてくださる同ファームの沼尻務さんにお話をうかがいました。
28歳の時にサラリーマンから農家へ転身したという沼尻さん。きっかけは、障がいのある長男でした。会社員時代は出張も多く、1か月家に戻れないこともあり積極的に子育てに関わることができなかったそうです。自営の農家なら家族で協力すれば時間の融通を利かせることができ、もっと息子のために時間を費やすことができると思い実家の家業に入ったといいます。
Q1,施設外就労先として受け入れてくださったきっかけ
畑に人手が欲しいと思っていたところ、生産者仲間から「障がいのある人が農業を手伝ってくれる」ということでごきげんファームを紹介してもらいました。作業の担い手としての期待はもちろんですが、農福連携のことも知りたかったですし、息子が学校を卒業後に進む選択肢の一つになるであろう就労継続支援B型事業所がどういう所なのかという興味もありました。

Q2,実際に受け入れてくださってどうでしたか?
まずファームスタッフのみんなには「近所の人にあいさつしよう」と伝えました。気持ちよく仕事をするためには、ご近所さんの理解も必要になってきます。最初は緊張気味だった近所の方たちとも、あいさつを通して徐々に距離が近づくようになりましたね。そのうちスタッフさんが別の畑へ行くと「あれ今日は違うの」と、声をかけてくださるようにもなりました。
もう一つ意識したことは作業面です。障がいのあるスタッフさんを引率する職員の方は福祉の面ではプロですが、中には農作業の経験が少ない人もいます。ですからスタッフさんに指示を出す職員の方に的確に作業の方法が伝わるように努めました。具体的には、自分と親父のやり方が違うと職員さんも現場で混乱してしまうため、どちらが教えても同じ方法で伝えられるように家族の中ですり合わせをしました。そうしたコミュニケーションの積み重ねが今につながっています。
うちの家族も「きょうは、ごきげんさん何をやっているの?」と気にかけています。ごきげんファームさんは、うちの畑にとって大事な戦力です。
Q3,障がいのあるファームスタッフとの関係性で意識していることを教えてください。
これは息子が通っていたリハビリの先生の言葉が影響しているのですが、「お父さん、子ども目線ですよ。息子さんと同じように家でほふく前進してみてください」と言われましてね。実際にやってみたんですよ。そしたらなくなったと思っていたフォークがビデオデッキの中に隠れていたり、コンセントの位置が子ども目線だとちょっと危なかったり、今まで見えていなかったことが見えてきたんです。それまで「どこを見ているのかな」と思っていた息子の目線に、少し近づけたような気がしました。ですからできるだけ一人ひとりのファームスタッフさんの目線に合わせるように心がけています。話しが好きな人とは会話しますし、言語でのコミュニケーションが苦手な人には無理に声をかけません。ずっと雲を見ているスタッフさんの隣で肩を並べて一緒に空を見ることもあります。畑でのそうした時間の共有を大切にしています。
Q4,将来の夢や目標を教えてください。
ごきげんファームの皆さんとは10年近く一緒にやってきました。目標を決めると無理をしてしまうことがあるので、あえて着地点を決めずにこの先も一緒に畑で汗を流していきたいです。
